こちらの記事は次のような方のニーズに応えるために書いています。
- 中小企業診断士とITストラテジストは似ているの?
- 中小企業診断士ならばITストラテジスト試験は簡単って本当?
- 中小企業診断士がITストラテジスト資格を取得するメリットは?
中小企業診断士資格を取得後、ITストラテジスト試験にも挑戦し、高得点で一発合格しました。両方の試験についての経験を元にしたアドバイスが可能です。
ITストラテジストとは
ITストラテジストの概要
ITストラテジストは、情報処理技術者試験の一区分です。
IPA(独立行政法人 情報処理推進機構)が設定している情報技術者試験の1~4のスキルレベルの中で、レベル4に相当する高度情報処理技術者試験の一つです。
2009年に、当時情報技術者試験の最高峰であるレベル5だったシステムアナリスト試験が、同じくレベル5の上級システムアドミニストレータ試験の範囲を吸収してITストラテジスト試験になりました。対象者像は「企業の経営戦略に基づいて、ビジネスモデルや企業活動における特定のプロセスについて、情報技術を活用して改革・高度化・最適化するための基本戦略を策定・提案・推進する者。また、組込みシステムの企画及び開発を統括し新たな価値を実現するための基本戦略を策定・提案・推進する者」としています。
また、この資格を保有する人は、経営戦略に基づいてIT戦略を策定し、ITを高度に活用した事業革新、業務改革、及び競争優位を獲得する製品・サービスの創出を企画・推進して、ビジネスを成功に導くCIOやCTO、ITコンサルタントになることが期待されます。
簡単に言えば、経営とITを結びつける戦略家ということですね。 IPAのホームページでも同様の記載がされています。試験は例年秋に実施されていましたが、令和3年度から春に実施されることになりました。
試験の難易度および概要
試験の難易度
試験は例年秋に実施されていましたが、令和3年度から春に実施されることになりました。合格率は概ね毎年15%程度です。
単純に考えると合格率自体はそこまで低くはないように見えますが、ITストラテジスト試験は、応用情報技術者試験や他の高度情報技術者試験に合格した方が受験する場合が多く、情報技術者試験の集大成といった試験ですので、そもそもの受験生のレベルが違います。
試験は午前I・II、午後I・IIの4つの区分に分かれています。
特に高度情報技術者でも高いレベルの要求される論述試験が午後IIで設定されており、正に最高難易度の試験と言えます。
午前試験
試験科目の詳細は、以下のようになっています。
まずは午前I・IIです。
令和3年度からテクノロジ系の情報セキュリティのスキルレベルが3から4に引き上げられています。午前試験ですのでそれほど気にすることはないとは思いますが、気になる方は情報処理安全確保支援士試験の午前試験の内容を見ておけば対策としては完璧であると考えます。
情報技術者試験はどれもそうなのですが、午前試験はあくまでも勉強してこなかった人の足切りのような位置づけです。
これは以下の応用情報技術者試験の合格体験記でもご説明していますが、記述式・論述式試験の採点は実際に採点者が文章を読んで採点しますので、全受験者の答案を採点するのは大変です。
午前の試験を通過できなかった受験者の答案は、採点すらされません。足切りを設けることで、採点する答案数を減らしていると考えられます。
午後試験
午後試験は、午後I・IIともに記述して回答することになります。
出題範囲としては、午後I・II共通で、以下が与えられています。
- 業種ごとの事業特性を反映し情報技術(IT)を活用した事業戦略の策定に関すること
- 業種ごとの事業特性を反映した情報システム戦略と全体システム化計画の策定に関すること
- 業種ごとの事業特性を反映した個別システム化構想・計画の策定に関すること
- 業種ごとの前提や制約を考慮した情報システム戦略の実行管理と評価に関すること
- 組み込みシステム・IoTを利用したシステムの企画,開発,サポート及び保守計画の策定・推進に関すること
午後I試験は、90分間で選択問題4問が出題され、そのうち2問に解答します。
その内1題は組み込みシステムの問題になります。組み込みシステムが名指しで指定されているのは、IoT時代を象徴した動きであり、IPAとしてもこの動きを重視しているということなのでしょうね。
これを選択するのが吉と出るか凶と出るか、試験戦略にも影響が出そうです。
午後Ⅱ試験は、ITストラテジスト試験最大の山場、論述試験です。
120分の試験時間で、3問出題のうち、1問を選択して解答する形式であり、設問の課題に対して、自分の経験を元に約2,000~3,000文字程度の論述で解答します。
こちらの午後IIもIoTを意識したのか、組込みシステムの出題が1問されることと決まっています。
想像は可能かと思いますが、ここまで残ってきた海千山千の猛者を相手に、A・B・C・Dの評価の内、A評価を取らなければ合格はありません。
合格率から見て、当然相対評価での合格率調整はされていると思われ、非常に厳しい関門であると言えます。特に、試験対策を全くしてこなかった場合、合格するのは奇跡に近いでしょう。
この記事で2014年秋期ITストラテジスト午後II論述試験の再現答案を公開しています。中小企業診断士資格者から見れば、このくらいのレベルで合格なの?という印象かもしれません。よろしければご覧ください。
ITストラテジスト資格の法的な位置づけ
このITストラテジスト資格ですが、実は労働基準法第十四条第一項第一号に定める、高度な専門知識を有する労働者(専門職)として認定されています。
詳細は、厚生労働省告示第三百五十六号「労働基準法第十四条第一項第一号の規定に基づき厚生労働大臣が定める基準」の「二 次に掲げるいずれかの資格を有する者」に記載があるのですが、
- 公認会計士
- 医師
- 歯科医師
- 獣医師
- 弁護士
- 一級建築士
- 税理士
- 薬剤師
- 社会保険労務士
- 不動産鑑定士
- 技術士
- 弁理士
に続き、三でITストラテジストが規定されています。
ちなみに、中小企業診断士は税理士が平成10年に上記に加わったときに追加が検討されたそうですが、結果的に加わることはありませんでした。
この専門職に就いている方の場合、労働基準法第十四条の規定では、有期労働契約の契約期間上限が原則3年のところ、例外として5年に延長されます。それ以外ではあまり意味はないのですが、法律で専門職と認められていることには重みがあるものと思います。
また、情報技術者試験共通の項目もありますが、以下のような特典もあります。
- 合格又は午前Iに基準点以上を得れば2年間、他の高度情報処理技術者試験及び情報処理安全確保支援士試験の午前Iの科目免除が受けられる。
- 科目免除又は任用資格
弁理士試験の科目免除(理工V・情報)
中小企業診断士試験の科目免除(経営情報システム)
技術士試験(情報工学部門)の科目免除(第一次試験専門科目)
ITコーディネータ(ITC)試験の科目免除
技術陸曹・海曹・空曹及び予備自衛官補(技能公募)の任用資格
警視庁特別捜査官の4級職(警部補)のコンピュータ犯罪捜査官の任用資格
Wikipedia ITストラテジストより
中小企業診断士とITストラテジストの比較
さて、ここまでITストラテジストについての情報を確認して来ましたが、ここで、中小企業診断士とITストラテジストの比較をしてみましょう。
やはり注目すべきは取得期間ですね。専門職という肩書がつく割には、試験対策に要する期間はそれほど長くはないと考えます。簡単に取得できる、というわけではありませんが・・。
特に中小企業診断士取得者ならば、という条件つきですが勉強時間をかなり短縮することができます。この点は後述します。
ITストラテジストはITの試験という位置づけなのですが、ITと経営を結びつける基本的な思考力や、経営判断に必要な知識が備わっていれば、IT知識自体はそれほどなくても合格できるのも特徴です。
これは基本情報技術者試験のような、IT人材の登竜門的な試験とは異なり、ある程度IT業界に身をおいた人を対象にしているため当然とは言えるのですが、テクノロジ系の、例えばアルゴリズムなどのIT知識が多少不足していても合格することは十分に可能です。
中小企業診断士にとってのITストラテジスト試験
中小企業診断士資格を持っている方がITストラテジスト試験を受験する場合、試験対策が絞られてきます。
午前IIと午後Iは余裕
実はITストラテジスト試験の午前IIと午後I試験は中小企業診断士で学習している範囲とほぼ同じです。
- 午前II
午前IIは4肢択一で、25問が出題されます。テクノロジ系の問題など、中小企業診断士試験では出題されない範囲もあるにはあるのですが、半分くらいは中小企業診断士試験の財務・会計、企業経営理論、運営管理などから出題されます。
60点で合格ですから、無勉強でも合格できるかもしれませんし、さすがにそれはリスクだと思われるのであれば、過去問をある程度やっておけば全く問題ありません。
- 午後I
午後Iは中小企業診断士の二次試験の事例問題のような形式です。記述式の文字数は30~40字程度が多く、中小企業診断士試験よりは簡単な印象です。
もちろんIT分野に関する経営戦略ということで、状況説明にはITの内容を多く含んでおり、ITに寄った解答を意識する必要はあるのですが、正直、中小企業診断士の二次試験のような捻った問題はそれほどなく、問われていることは非常に素直な内容です。
そして、IT知識そのものを問われるというよりは、あくまでもITに関する経営課題の把握、ITを活用した経営課題の解決、という点が問われますので、これはもう中小企業診断士の独壇場ですよね。
中小企業診断士二次試験対策で、「問われたことに正確に答える」ということが実践できる方は、午後I試験は余裕で通過できるでしょう。
午前Iは過去問で大丈夫
午前Iは中小企業診断士には馴染みのない部分であるテクノロジ系が全30問中15問出題されます。これに通過できないことにはその後の試験が採点されませんので、落とすわけには行きません。
とはいえ、午前I試験は過去問からの出題も多く、計算問題などを除いては過去問丸暗記でいけると思います。リスクを感じるようであれば、過去問の範囲を広げる、または高度情報技術者試験の午前I問題は応用情報技術者試験から選んで出題されますので、応用情報技術者試験の過去問に取り組んでみるなど、いずれにしても過去問中心でOKです。
最大の難関午後II
中小企業診断士にとっては、ITストラテジスト試験は午後IIのみと言っても過言ではありません。
ここだけは中小企業診断士で学習していない、2,000~3,000文字の論述ですからある程度真剣に対策をする必要があります。
最初の方でITストラテジスト試験の難しさ、特に午後II試験の難しさを語りました。ただし、受験生のレベルの高さは想像どおりのレベルですが、解答のレベルはそれほどでもない、と私は断定します。
そもそも、午後II試験のように、その日出題されて初めて見る課題に対して、過去の自分の経験を元に論述する、という内容はそれだけで難易度が高く、受験生全員がその場でパーフェクトに対応できることはありえません。
私はITストラテジストとシステム監査技術者試験の2つの論述式試験に合格しており、その時に書いた論述のレベルは本当に高いとは言えないものでした。
ただし、以下の2点だけは徹底しました。
- 事前に論述のテーマを5~6個つくっておく
- 論述の基本となる型を守る
事前に論述のテーマを5~6個つくっておく
これは当日、試験で初めて問題を見て、論述に書く内容を考えていては、運が良くない限りほぼ合格は不可能であると考えます。
よって、書くテーマを最初から5~6個準備しておいて、出された問題に合わせてふさわしい内容を選択する、という試験戦略を取るべきです。
なお、万が一問題が準備しておいたテーマに当てはまらなかったとしても、一から考えて書くよりも、多少強引にでも準備してきたテーマに問題を寄せていって、書きやすいテーマを元に記述をしていった方が合格の確率は上がると思います。
正直なところ、120分で2,000~3,000文字の論述をするのは、よほど準備をしていない限り不可能です。
これはよほど書くことに慣れていない限り、どなたでもそうなのではないかと推測します。試験が始まる前には勝負はついている、これがITストラテジスト試験などの論述試験なのだと私は考えます。
論述の基本となる型を守る
こちらも守らない場合不合格になる可能性が大です。型について一例を示します。
「このシステム開発には~という課題があった。そこで私は~の施策を立案した。なぜなら~と考えたからである。施策の結果は~であった。」
つまり、因果関係で課題、対策、結果を語っていく、いわゆる解答の型です。
中小企業診断士の事例問題の解答の型である20文字×2~5項目、という型が、合計で2,000~3,000文字に増えてはいますが、基本は同じということですね。
難易度の高い午後II試験ですが、この2つを守れば、中小企業診断士の方であれば短時間でも合格は可能であると考えます。
中小企業診断士がITストラテジストを取得するメリット・デメリット
私は、中小企業診断士がITストラテジストを取得することには非常に大きなメリットがあると言えます。
- 中小企業診断士にとってITストラテジスト試験は受験コストが非常に低い(試験内容の親和性が高い)
- 中小企業にとってIT課題の解決は大きな課題であり、ITストラテジスト取得はIT分野に強い中小企業診断士としての証明としての効果が大きい
少ない投資で効果は大きく!中小企業診断士にとってそれが狙えるのがITストラテジストだと思います。
デメリットは、
- ITに関する業務にまったく関わったことがない場合、論述対策が難しい
ということくらいだと考えます。この論述対策についても、中小企業診断士として中小企業の経営者に寄り添って経営革新を実施していく立場なのですから、自らの業務経験とは関係なくても、従業員に対して「夢を語れる」くらいのレベルである必要はあるでしょうし、そうした練習と考えて論述対策をしてみるのも面白そうです。
まとめ
以上、私のITストラテジスト試験合格の経験も含め、中小企業診断士がITストラテジスト資格を取得することをオススメすることをお伝えしてきました。
肩書にITストラテジストと書くのも、経営陣やCIOの立場でもない状態で名刺にITストラテジストと入っていても「?」となってしまうかもしれませんが、中小企業診断士の肩書の横にITストラテジストと入っていたら、経営もITも任せられる頼れるコンサルタント、という印象を与えませんか?
中小企業診断士にとってはITストラテジスト試験は非常に親和性が高く、通常よりも学習時間を大幅に短縮することが可能です。
今までもそうですが、今後中小企業にとってITの活用はより一層重要視されていくことは間違いありません。中小企業診断士としての差別化のため、論述試験の手の痛さに耐え、是非ITストラテジストの肩書を勝ち取ってください!
以上、ここまでお読みいただきましてありがとうございました。