こちらの記事は次のようなことを知りたいという方に向けて書いています。
- 中小企業診断士1次試験の中小企業経営・中小企業政策の特徴と対策を教えてほしい
- 中小企業経営・中小企業政策は毎年内容が変わるから過去問は意味ないよね?
- 中小企業経営・中小企業政策の暗記はどうやってやればいい?
中小企業診断士1次試験は2ヶ月半程度の学習で合格していますので、短期合格のための学習方法には自信があります。中小企業経営・中小企業政策は、基本的には暗記の試験と思われがちですが、ただ覚えさえすればいいという訳ではありません。これから中小企業経営・中小企業政策の特徴を解説して、私がおこなった対策を説明しますね。
中小企業経営・中小企業政策の特徴
出題は1次試験中心。ただ他の6科目と明確な違いあり
中小企業経営・中小企業政策は中小企業診断士試験の1次試験科目です。中小企業診断士試験ですから、中小企業に関する経営や政策の知識は2次試験でも必要といえば必要なのですが、実際は2次試験で直接中小企業経営・中小企業政策の知識を問われることはほぼありません。
2次試験対策としては、中小企業経営・中小企業政策は知っていればいいかも、というレベルですので、基本的に中小企業経営・中小企業政策は1次試験を中心で考えればOKです。
もちろん、中小企業診断士の活動としては、中小企業経営で学ぶ中小企業の置かれている状況、中小企業政策で学ぶ各種補助金、支援制度の知識は非常に重要です。ただ、こうした情報は毎年アップデートされていくべきものですし、中小企業診断士として活動すれば自ずと必要になってきます。
ですので、ひとまずは1次試験だけのことを考えておけば大丈夫です。
こちらの1次試験と2次試験の関係をあらわした図では、中小企業経営・中小企業政策は2次試験では「少し関係あり」と位置づけています。
基本的には暗記がメインの試験
1次試験の中小企業経営・中小企業政策について解説します。
1次試験の中小企業経営・中小企業政策は2日目の13:30~15:00の90分間でおこなわれます。中小企業診断士1次試験の一番最後の試験ですね。2日がかり、かつ緊張の中で難易度の高い問題を解いていく試験ということもあり、中小企業経営・中小企業政策を受験する頃には体力的にも精神的にも限界が来ている可能性があります。
最後まで集中力を切らさないことが重要です。
問題数は42問で、配点は1問2~3点となっています。1問当たり使える時間は2分9秒ですが、中小企業経営・中小企業政策は複雑な計算問題などはないため、時間的には十分と言えます。
中小企業経営・中小企業政策は、基本的には暗記の試験と考えて問題ありません。ですから、できる限り多くの内容を暗記していれば高得点が期待できる試験と言えます。しかも、出題内容は他の暗記科目と言われる経営情報システムや経営法務と比較して、素直な出題が多いため、本当に覚えてさえいればOKという問題も多いです。
ただ、試験に出る可能性がある範囲を暗記しようと思ったら、極めて膨大になってしまいますので、メリハリを付けた学習が必要となります。この学習方法については後述します。
合格率は決して高くない
中小企業経営・中小企業政策は、試験範囲が広いこともあり、難易度は高めの科目であると考えます。以下はここ10年間の中小企業経営・中小企業政策の科目合格率の推移です。ここ5年では科目合格率が20%を超えたのは1回のみとなっていて、簡単な科目ではないことがわかります。
ちなみに、この科目合格率には1次試験合格者が入っておらず、成績の良い可能性の高い、合格者のデータが含まれていないことにご注意ください。
後述しますが、しっかりと学習しておけば解答可能な問題が多いため、出題されるポイントを抑えて学習していくことが重要です。
出題範囲
1次試験の中小企業経営・中小企業政策の出題範囲は2つに分かれています。科目名のとおり、中小企業経営と中小企業政策です。出題される42問中、おおよそ半分ずつの出題となります。
中小企業経営
- 経済・産業における中小企業の役割、位置づけ
- 中小企業の経営特性と経営課題
中小企業経営は、主に中小企業庁が発行する中小企業白書から出題されます。試験の年度の前年に出版された中小企業白書が出題対象となります。例えば令和3年の試験であれば、令和2年度の中小企業白書です。出題内容としては、中小企業の動向や特徴、経営課題、労働生産性など統計データを元にしたものとなります。
これらの統計情報は、覚えていない限り正確に解答することはできないため、知らない統計情報が出題された場合は勘で解答するしかありません。ある程度学習をしておけば、中小企業の動向のトレンドが頭に入っていて、全く知らない情報であっても何となく解答を導き出すことができる問題もありますが、準備しておくに越したことはないですね。
出題傾向が社会保険労務士試験の労一、社一に似ているクイズ形式
この出題傾向は、社会保険労務士試験で数々の受験生を泣かせてきた「労務管理その他の労働に関する一般常識」(労一)、「社会保険に関する一般常識」(社一)に少し似ています。この2つの科目は、いくら準備をしていても、知らない問題が平然と出題されます。
ご参考まで、労一、社一の出題内容を見てみましょう。
労務管理その他の労働に関する一般常識(労一) | 労働関連諸法令(労働基準法等他の試験科目を除く)、労働経済白書、労務管理用語 |
社会保険に関する一般常識(社一) | 社会保険関連諸法令(国民年金法等他の試験科目を除く)、厚生労働白書、社会保険概論 |
労働経済白書も厚生労働白書も相当なボリュームですので(厚生労働白書と中小企業白書は同じくらいのページ数)、すべてを抑えるのはほぼ不可能です。当然見たことも聞いたこともない問題が出て、クイズ番組を見ていて勘で答えるような状況に陥ります。
この出題の理不尽さと、5問中3問間違えたら「はい、また来年!即不合格!」(得点調整も一応ありますが)容赦ない足切りの無慈悲さで、社会保険労務士試験は運ゲーという評価も成り立つレベルになってしまっています、
中小企業経営はそこまで怖くない
一方で中小企業診断士試験の中小企業経営は、という試験ではありません。42問の半分、21問中で6割を取ればいいので、そこまでの精神的負担はないと思います。
加えて、中小企業政策の方が対策がしやすいため、場合によっては中小企業経営は5割なんとか確保して、中小企業政策で7割程度取るという戦略も成り立ちます。問題数が多く、リスクを分散できる分、社会保険労務士試験よりは与し易いといえるでしょう。
中小企業政策
続いて、中小企業政策の出題範囲を見てみましょう。
- 中小企業に関する法規と政策
- 中小企業政策の役割と変遷
中小企業政策は、主に中小企業庁が発行する中小企業施策利用ガイドブックから出題されます。こちらも中小企業白書同様、前年度の中小企業施策利用ガイドブックから出題されると考えてください。この中小企業施策利用ガイドブックですが、300ページを超えるボリュームであり、中小企業白書ほどではありませんが、出題範囲は広いです。
中小企業経営との大きな違いは、制度や施策について出題されますので、ある程度的が絞りやすいと言えると思います。実際に、過去の出題の傾向を見てみると、中小企業基本法の概要や中小企業憲章、行動指針などからの出題が多いこと、問われる施策がある程度決まっているといった特徴があります。
ですので、頻出の論点をしっかりと抑えておいて、あとは周辺の知識をできるだけ覚えられるようにしておけば対策としては十分です。特に補助金等の施策については、支援内容(金額や期間、自己負担割合)、要件や制約、制度の実施主体などの情報を整理して、似たような施策との比較で覚えていくと理解が進むと思います。
中小企業経営・中小企業政策の出題範囲について説明しました。なお、中小企業診断士試験の第1次試験案内・申込書には、もう一つの出題範囲として「その他中小企業経営・中小企業政策に関する事項」との記載がありますが、それほど意識する必要はありません。
中小企業経営・中小企業政策の対策
ここまで中小企業経営・中小企業政策の内容について説明してきました。ここからは合格のための対策について述べたいと思います。
過去問アウトプットで出題傾向の把握とクイズ勘を鍛える
正直、中小企業経営・中小企業政策では過去問は不要!という意見が多数派だとは思います。
ただ、中小企業経営・中小企業政策でも私は過去問アウトプット学習は有効であると考えます。理由は3つあります。
- 過去問を解くことで、本試験で出題される問題のレベルがわかる
- 5年分の過去問であれば、半分くらいは使える知識が入っている
- クイズ勘を鍛えられる
正直、①は「過去問を解かなくてもざっと見ればわかる」、②は「過去問を解く時間の半分は無駄な時間になる」という反論が成り立つとは思います。
ですが、実際に過去問を解いてみて解答を導き出そうとしてこそ、問題のレベルがよくわかりますし、すでに変わってしまった情報だったとしても、中小企業の統計情報の傾向、言い方を変えれば中小企業を取り巻く環境及びその対応についてのストーリーはそこまで大きく変わるものではありません。
過去問で問われた内容が頭に入っていることで試験で不利に働くことはそれほど多くはなく、私としてはメリットのほうが多いと考えます。
そして何よりも重要なのは③のクイズ勘を鍛えられるです。
私は中小企業診断士試験に合格してから社会保険労務士試験に合格したので、その当時はそこまで意識していなかったのですが、見たこともないような一般常識問題に対応するには、多くの初見の問題に悩んで、解いてきた経験が最後の最後では生きてくると思います。
この考え方は社会保険労務士試験受験時に思い知りました。まったく頭の中にない知識を聞かれた時に、どうやって解答を絞るか?問題文の情報、選択肢の情報のみから、論理的思考で解答を絞り込むプロセスを数多くこなすことで、まったくの勘で解答するよりは正答率を上げることが期待できます。
そのための経験値を獲得するために、過去問で練習しておくのは、試験合格の近道になると考えます。
これを私は過去問アウトプット学習と呼んでいます。
私は、経済学・経済政策についてはまったくの初学だったのですが、2ヶ月半で1次試験を完全合格(全科目60点以上)かつ平均78点という高得点で突破していますので、この学習方法は間違っていなかったと考えています。他の多くの資格試験でも実績を出しています。
過去問アウトプット学習については、具体的な方法や、繰り返す回数などをこちらの記事で詳しく説明していますので、よろしければご参照ください。
なお、過去問学習としては、私はこちらのTACの過去問集を使用しました。TACの過去問は解説が詳しい上に、法律の改正などにより必要な情報が変わっているのであれば、それをきちんと解説してくれていますので、使いやすいと思います。
中小企業診断士 最短合格のための 第1次試験過去問題集 (7) 中小企業経営・中小企業政策
TACに限らなくても構いませんが、必ず問題の解説が詳しく書いてある過去問を選ぶことが重要です。過去問アウトプット学習では、解説を読むことで知識の底上げを狙いますので、解説がきちんとしていなければ意味がありません。
練習問題で最新の情報を抑えておく
中小企業経営・中小企業政策に関して言えば、過去問アウトプット学習だけでは不十分です。理由は、過去問はあくまでも過去の本試験での出題範囲が対象になっており、最新の中小企業白書や中小企業施策利用ガイドブックを対象にしたものではないからです。
そのため、問題演習としてはTACのような予備校が出版しているオリジナル問題集を解いていくことをオススメします。こういった問題集は出題対象となる中小企業白書や中小企業施策利用ガイドブックの情報を元に作成されており、問題を解き、解説を読むことで新しい知識を入れていくことが可能です。
私はこちらのTACのスピード問題集を活用しました。過去問同様、解説や情報がしっかりと抑えてあり信頼できます。
中小企業診断士 最速合格のための スピード問題集 (7) 中小企業経営・中小企業政策
テキストでの学習も中小企業経営・中小企業政策では必要
私は中小企業診断士1次試験では基本的にテキストが不要であると考えています。ですが、中小企業政策・中小企業経営に関しては、テキストが必要であると言わざるを得ません。
これは前述のとおり過去問アウトプット学習での知識のインプットの期待値が低いことと、試験範囲が広い科目で、試験対策の効率を考えた絞り込み過ぎが危険と考えるためです。
他の科目では論点の整理として非常に有用なこちらのポケットブックですが、中小企業経営・中小企業政策の対策では少し足りないかな、と思います。
そのため、私は中小企業診断士1次試験の7科目中唯一、TACのスピードテキストを購入して使っていました。
中小企業診断士 最速合格のための スピードテキスト (7) 中小企業経営・中小企業政策
直前期には、テキストに書いてある重要情報についてはすべて覚えておけるような状態にしておきたいです。覚えているかどうかで解答できるかが決まる問題が多いので、暗記はとても重要です。
中小企業白書・中小企業施策利用ガイドブックは参考程度
中小企業経営・中小企業政策の試験範囲は主に中小企業白書・中小企業施策利用ガイドブックとなりますから、中小企業白書・中小企業施策利用ガイドブックを抑えておけば完璧!ということで一から読んでいる方もいると思います。
私はこの方法は試験対策としては全くオススメできません。
もちろん、こうした情報に対してアンテナを張るという意味で、白書やガイドブックを読み込むのはいいことではあるとは思います。ただ、中小企業診断士試験に合格するという観点で考えれば、他にやることはたくさんあるはずで、優先度は低いと言わざるを得ません。
ちなみに、中小企業白書に関して言えば、そこで紹介された事例に似た内容が2次試験の事例問題で出題されることもあるようですが、それを把握していたからといって確実に合格できるわけではなく、むしろ他の点(設問解釈や回答記述)も重要であり、試験対策としての時間対効果を考えればそこまで意味がないのではないかと私は考えます。
試験当日の追い込み暗記も有効
私が実際におこなった方法ですが、中小企業経営・中小企業政策は、その前の試験が経営情報システムであることを利用して、経営情報システムの解答を終えたらすぐに退出して(試験開始後30分経過したら退出可能)、中小企業経営・中小企業政策の暗記に取り組んでいました。
私が同年に応用情報技術者試験に合格しており、経営情報システムに自信があったというのもありますが、経営情報システムは時間をかければ解答できる問題が少ないため、ケアレスミスを防ぐための見直しまでできていれば、時間前に終わらせることは問題ありません。
試験直前に見た情報がどこまで頭に残っているかは未知数ですが、それで1問でも拾えれば儲けものです。最後の最後まで情報を頭に叩き込んで、ギリギリまで粘って暗記しましょう。そういう姿勢が資格試験では重要だと思っていて、私が数々の資格試験に一発合格しているのは、この1問でも取りに行く姿勢によるものだと思っています。
まとめ
以上、中小企業経営・中小企業政策の概要および対策を述べてきましたがいかがでしたでしょうか。ここでまとめておきたいと思います。
- 2次試験でも関係はあるが、試験対策としては1次試験に割り切ってもOK。
- 科目合格率はここ5年間では高いとは言えない状態。ただししっかりと対策すれば合格は十分に可能
- 過去問アウトプット学習は勘を鍛える意味でも取り組みたい。ただ最新情報を反映した問題集や、テキストでの暗記も取り入れることで合格確率向上を目指すべき
- 中小企業白書・中小企業施策利用ガイドブックはボリュームが多すぎるため参考程度と考える
- 直前期はとにかく暗記で1問でも多く取る努力をする。試験当日の暗記も効果あり
中小企業経営・中小企業政策は、試験範囲は広く的を絞りづらい試験ですが、一方で難問というものは少なく、しっかりと学習していれば点数が上がる試験です。
7科目もある1次試験でどれだけの時間を割くかは悩むところですが、直前期には暗記に使う時間を少し多くして、しっかりと得点できるレベルにしたいですね。
ここまでお読みくださいましてありがとうございました。