こちらの記事は次のようなことを知りたいという方に向けて書いています。
- 中小企業診断士試験の経営法務の特徴と対策を教えてほしい。
- 経営法務を受けるために他の法律資格を取得したほうがいい?
- 経営法務の学習方法を教えて!
中小企業診断士1次試験は2ヶ月半程度の学習で合格していますので、短期合格のための学習方法には自信があります。経営法務は暗記がメインの科目ですが、やみくもに何でもかんでも暗記するよりは、ポイントを絞って覚えていくことが合格への近道です。私はビジネス実務法務検定や行政書士・社会保険労務士にも合格していますので、それらの資格試験との違いや特徴を解説して、私がおこなった対策を説明しますね。
経営法務の特徴
1次試験対策のみでOK
経営法務の知識は、中小企業診断士試験の1次試験のみで問われると考えて構いません。2次試験では中小企業の経営指導をおこなう前提での事例問題を解くことになりますが、ここで法律論を問うような問題は出ませんので、経営法務の知識は考えなくて大丈夫です。
そのため、経営法務については、1次試験に合格できるレベルまで知識を向上できればいいということになります。
こちらに1次試験と2次試験の関係をあらわした図を表していますが、経営法務は、経済学・経済政策と同様に、「あまり関係なし」というレベルにしています。経営法務の知識は、中小企業診断士として活動するには必要な知識ですので、知っておくに越したことはないのですが、試験対策として考えるのであれば、まずは1次試験を突破できるレベルまでを目指しましょう。
経営法務は暗記の試験
ここからは、1次試験の経営法務について解説します。
1次試験の経営情報システムは2日目の9:50~10:50の60分間でおこなわれます。問題数は25問で、配点は1問4点となっています。基本的には60点以上が合格点となりますので、25問中15問以上の正答を目指す必要があります。
25問中15問というのは、10問までは間違えてもいいということになります。ただ一方で、15問間違えてしまうと足切りの40点ということになりますので、1問4点の重みはかなり大きいです。経営法務では正誤問題で選択肢の文言の一部を変えてひっかけてくることも多く見られますので、ケアレスミスで誤った選択肢を選ぶことがないように気をつけましょう。
経営法務は1問2分24秒で解答することになりますが、法律の問題ということもあって、難しい用語が並んでいて読みづらい問題や、ある事例について会話形式のやり取りがあって、そこの穴埋めをするような問題では文章量が多くなっていたりする問題が出題されます。
こうした問題が一定数出題されることを考えると、時間配分をしっかりと考えて、時間が足りなくなって、焦ることのないようにしなければなりません。難しそうな問題はどんどん飛ばして、後で考えるようにするなど、試験戦略をしっかりと立てて望む必要があります。
経営法務は基本的に暗記の試験と考えてOKです。会話形式のやり取りの穴埋め問題であっても、暗記ができていれば解答は可能ですし、そういう意味では捻った問題というのはあまりありません。よって、暗記をしっかりとするようにしましょう。
ここ5年の合格率は低水準
経営法務の科目合格率を見てみましょう。ここ5年で見た場合、10%を下回る科目合格率が3回出現しています。概ね10%かそれ以下の科目合格率ということで、平均で20%程度の合格率が期待できる中小企業診断士1次試験の中では、低い合格率ということになります。
経営法務は、暗記さえできていれば合格は難しくないと考えますが、細かい知識を要する問題が多く、中途半端な学習では太刀打ちできない問題もありますので、油断せず学習することが重要です。
なお、この科目合格率には成績の良い可能性の高い、合格者のデータが含まれていないことに注意が必要です。合格者を含めた経営法務の科目合格率はもっと高いと予想できます。
出題範囲
1次試験の経営法務の出題範囲について確認しましょう。
経営法務の特徴として、頻出範囲が限られているということです。その一方で、その出題範囲内で問われる知識はそれなりに細かく、付け焼き刃の知識では解答できない可能性があります。
- 事業開始、会社設立及び倒産等に関する知識
- 知的財産権に関する知識
- 取引関係に関する法務知識
- 企業活動に関する法律知識
- 資本市場へのアクセスと手続
- その他経営法務に関する事項
経営法務という科目名から多くの法律を理解しておかなければならない、と思ってしまいそうですが、頻出の法律は決まっています。それが会社法と知的財産権です。それに加えてもう1つの分野として、その他企業活動に関する法律があり、大きく分けるとこの3つの分野から3分の1ずつくらい出題されるようになっています。
その他企業活動に関する法律は範囲が広く、すべて抑えるのは難しいため、比較的頻出分野が決まっている会社法と知的財産権を集中的に学習して得点できるようにすることが経営法務攻略の鍵です。
会社法
会社法は、中小企業のコンサルティングでも必須となる、株式会社の機関や設立に関する法律知識が頻出論点となります。特に株式会社の機関、たとえば株主総会や取締役、取締役会などのことですが、それぞれの機関の設置義務、決議事項、選任・解任、任期などを横並びで共通点や異なる点を意識しながら理解しておくことが重要です。
また、最近では中小企業の事業承継も話題に上がることが多くなっていますので、合併や買収などの企業再編に関する法律知識が問われるケースも増えてきているようです。
知的財産権
知的財産権については、産業財産権(特許権・実用新案権・意匠権・商標権)および著作権が頻出論点です。産業財産権については、こちらも横並びで共通点と違いについて、しっかりと理解を深めておくことが重要です。著作権については、著作権だけでなく著作隣接権についての知識を問われることが多いです。
また、不正競争防止法についても問われることが多いので抑えておきたいです。
その他企業活動に関する法律
それ以外にも多くの法律が経営法務では出題されます。代表的なものは以下のとおりです。
民法
契約に関する法律や相続などが頻出分野です。最近では事業承継が話題になっているため、相続に関する法律が出題される可能性が高く、全体的には基本的な知識を聞いてくる問題が多く出ているようです。あまり深入りせず、広く浅く学習することを前提にして、過去問レベルの基本知識についての理解をしておくに止めておいてください。
英文契約
なぜかはよくわかりませんが、経営法務では英文契約に関する問題が1~3問問われます。私は中小企業診断士を受験した当時TOEIC950点でしたが、英文契約の表現は難しく、正答率は高くありませんでした。基本的な英文法律用語を抑えておいて、過去問で出題された内容は抑えておくくらいでいいと思います。
その他法律
製造物責任法、金融商取引法、独占禁止法、下請代金支払遅延等防止法、他多くの法律に関する問題が出題されていますが、すべてに対応するのは難しいです。これらについても過去問レベルの問題には対応できるようにしておくことを考えておきましょう。
経営法務の対策
経営法務の内容について説明しましたが、ここからは合格のための対策について述べたいと思います。
会社法・知的財産権を中心に過去問学習を進める
経営法務は、暗記試験ということもあり、正確に記憶さえしていれば解答できる問題が多いです。その意味では、できる限りの知識を持っていることが大事です。しかしながら、中小企業診断士試験は7科目もありますので、経営法務だけを集中して学習するわけにもいきません。あくまでも効率を考えた学習が必要です。
そのため、まずは頻出範囲である会社法、知的財産権を中心に過去問学習を進めていくことがオススメです。当然過去問の選択肢だけを理解すればいいのではなく、解説も読み込んで、出題された内容の周辺知識についても理解していくことが重要です。
加えて、経営法務は法律に関する試験ということもあり、法律の難しい言い回しが多用されます。この難しい表現に慣れておくためにも、過去問には可能な限り早めに着手しておくことが必要です。
このように過去問を早めに解く効果として、
- 初見の問題に対する対応力をつけられる
- 過去問の試験レベルに早くから慣れられる
- 頻出論点から優先して学習できる
などが挙げられます。この過去問を優先して学習していく学習法を、私は過去問アウトプット学習と呼んでいます。
過去問アウトプット学習については、具体的な方法や、繰り返す回数などをこちらの記事で詳しく説明していますので、よろしければご参照ください。
なお、過去問学習としては、私はこちらのTACの過去問集を使用しました。5年分の過去問と詳細な解説が載っていますのでオススメです。
中小企業診断士 最短合格のための 第1次試験過去問題集 (6) 経営法務
過去問はTACに限らなくても構いませんが、過去問アウトプット学習で必ず問題の解説が詳しく書いてある過去問を選ぶことが重要です。TACの過去問集は各選択肢についての解説が詳細に記載してあり、かつ周辺知識についてもカバーしていますので、過去問アウトプット学習に最適と考えています。
練習問題で知識の幅を広げる
過去問のみの学習でも、解説をしっかりと読んで周辺知識まできちんと学習することで、それなりのレベルまで知識を向上することは可能です。
しかしながら、過去問だけでは学習範囲が足りないと考えますので、もう少し学習範囲を広げておきたいところです。経営法務は暗記がメインの科目であり、知識がなければ解答できない問題が多いため、知っている・知らないの違いが明確に出てしまうからです。
そのため、TACのような予備校が出版しているオリジナル問題集を解いていくのがオススメです。過去問と同じような問題も含まれていますが、問題集独自の問題もありますので、そこでさらに知識を広げておくのは試験対策として有効です。加えて、試験に出そうな法律改正のあった論点なども重点的に取り上げてくれているため、有効な試験対策が可能です。
私も使用しましたが、問題集でのアウトプット学習としては、こちらのTACのスピード問題集の活用することがオススメです。こちらも過去問同様、解説がしっかりとしています。
中小企業診断士 最速合格のための スピード問題集 (6) 経営法務
なお、問題集としては、必ずしもTACである必要はなく、
- 分野別の論点をしっかりカバーしている
- 問題のクオリティがそれなりに高い
- 解説が詳細に書かれていてインプット学習に使用可能なレベルになっている
という条件を満たしたものにすれば何でもOKです。
過去問・問題集で学んだ知識をポケットブックで整理
過去問、問題集の学習と並行して、論点の整理としてポケットブックの活用をオススメします。こちらのリンクになります。
中小企業診断士 最速合格 要点整理ポケットブック 第1次試験2日目
当然ながらスピードテキストの方が抑えている範囲は広く、持っておいても損はないですが、テキストただ読んでいくよりも、しっかりと頭に入れるという観点で学習するためには、ポケットブックくらいのボリュームの方がいいと考えます。
ただし、ポケットブックの使い方として、ただ漫然と読み進めていくのではなく、付属の赤いシートを使って、きちんと暗記するという意気込みで読んでいくことが重要です。学習するときには、常に目的を持っておこなうことが大事で、過去問、問題集は問題を解いていって覚える、ポケットブックは暗記するというように、頭にきちんと残るような学習をすることを意識していってください。
資格試験などに短期間で合格する方は少なからずこうした工夫をしているはずです。場合によっては単に短い時間でたまたま合格する方もいるとは思いますが、短期間合格を目指すのであれば、しっかりとしたロジックに裏付けられた学習をすることを心がけることが重要です。
なお、私の場合、スピードテキストは購入しておらず、サイズが小さくて持ち運びにも便利なポケットブックを通勤、昼休み、お風呂の時間など、スキマ時間に暗記するために使っていました。
法改正には注意
法律系資格の受験では必ず出てくる話なのですが、法改正があった場合の対策には注意が必要です。例えば社会保険労務士試験では、予備校が「法改正のポイント」のような冊子を配布してくれるのですが、直前で法改正の内容を抑えておくのは非常に重要です。
特に法律系資格だと、その法律のプロになれるかどうかの試験ですので、「プロとして法改正はちゃんと理解できていますよね?」と言わんばかりに、改正論点を狙って出題されます。
受験生としては待ってました!というところなんですけどね。
最近では、令和2年度の経営法務では改正民法に関する出題が25問中6問も出題されました。中小企業診断士は法律のプロではないとはいえ、中小企業のコンサルティングのプロとして、プロ意識はありますか?という問いかけの出題だと考えます。
しっかりと最新情報もキャッチしておくようにしましょう。この最新の法改正情報については、やはり予備校の情報を利用するのが効率的です。予備校に通っていれば情報が配布されるでしょうし、模擬試験を受験すると法改正を問うような問題が出されます。こうした情報を活用していきましょう。
法律系資格は経営法務対策に有効?
中小企業診断士の経営法務の受験を考える際に、他の法律系資格を受験したほうがいいか?という疑問を持たれる方が多いようです。確かに、中小企業診断士試験を受験する前に、何らかの資格試験に合格した場合、経営法務の対策にもなるし、資格取得もできるし、一石二鳥と考えられるかも知れません。ただ私としてはあまりオススメできません。
私は社会保険労務士や行政書士、ビジネス実務法務検定1級を保有しており、法律系資格についてはある程度理解があるつもりですので、その経験からお話したいと思います。
なお、社会保険労務士や行政書士は今回の検討対象にはしません。これらの資格は中小企業診断士試験の前にとりあえず取る、というレベルではないからです。
ビジネス実務法務検定3級
私はビジネス実務法務検定3級は受験していないのでわからない部分がありますが、経営情報システムの対策としてITパスポートを受験するのはどうか?という検討に似ていると思います。
ITパスポートの合格率約50%に比べて、ビジネス実務法務検定3級は合格率が約75%(2019・2020年度累計)という驚異の合格率です。実は問題がかなり簡単で、常識論で解答しても合格できてしまいそうな難易度の問題が多いです。
そんなビジネス実務法務検定3級ですが、経営法務と比較すると範囲がかなり異なります。簡単に言えば、非常に広く浅く、社会人として生きていくための法律知識を学習するというのがコンセプトであるため、経営法務で必要とされる会社法や知的財産権については全く足りず、一方で民法については経営法務よりも広い範囲の学習が必要となっています。
経営法務の対策としては中途半端かな、と思います。
ビジネス実務法務検定2級
ビジネス実務法務検定2級ですが、仮に経営法務対策として受験を考えるのであればこちらかな、と思います。ですがオススメはできません。理由はやはり民法の範囲が広いことですね。法律の学習としては民法が基本なのでそれをきちんと学習するのはいいのですが、経営法務の受験対策としては民法は会社法、知的財産権に次ぐ三番手になりますので、範囲の違いの影響を受けてしまいます。
中小企業診断士1次試験まである程度時間に余裕のある12月に受験するのであれば、ビジネス実務法務検定2級を受験することはありかな、と思います。ただ経営法務は2次試験ともほとんど関係ありませんし、加えて合格率が約40%とかなり高い数値となっているこの資格を持っているメリットはあまりないかな、と思いますので積極的に受験する必要はないと思います。
ビジネス実務法務検定1級
日本で数少ない資格保有者ですので一応書いておきます。論文試験ということもありそれなりに難易度は高いのですが、経営法務とは関係ありません。
ポケット六法持ち込み可の論文試験という独特の雰囲気を味わうことが可能な興味深い試験ですが、受験の労力と得られるものが乖離しすぎているのは受験者数が年500人以下、合格者が100人以下試験であることからわかると思います。
いずれにしても、経営法務対策としての受験はまったくオススメできません。
まとめ
以上、経営法務の概要および対策を述べてきました。ここでまとめておきたいと思います。
- 2次試験はほぼ関係ないため、1次試験対策のみでOK
- 科目合格率は10%程度と低く難易度が高い試験
- 過去問アウトプット学習で会社法や知的財産権などの頻出論点と周辺知識を抑える
- 過去問をやった後は、問題集でアウトプット練習しつつポケットブックで暗記
- 法改正はよく狙って出題されるので注意!
- 経営法務のために他資格を受験するのはオススメできない
経営法務は暗記の試験ですが、すべての範囲を抑えるのは難しいため、頻出論点に重点を絞った学習が重要です。過去問アウトプットで頻出論点と周辺知識を学習し、それを足がかりにして、知識を広げていきましょう。
ここまでお読みくださいましてありがとうございました。