こちらの記事は次のようなことを知りたいという方に向けて書いています。
- 中小企業診断士試験の企業経営理論の特徴と対策を教えてほしい。
- 企業経営理論の問題が難しい。学習方法を知りたい!
- 企業経営理論で高得点を取るためにはどうすればいい?
企業経営理論は言い回しが難しくて解答を選ぶのが難しい問題が多いですが、対策できないことはありません。これから企業経営理論の特徴を解説して、私がおこなった対策を説明しますね。
企業経営理論の特徴
1次試験だけでなく2次試験でも重要
企業経営理論は、中小企業診断士試験の1次試験だけでなく2次試験でも重要な科目です。
中小企業診断士試験というのは、中小企業支援法で「中小企業の経営診断の業務に従事する者」となっています。経営診断が中小企業診断士の業務なのですから、企業経営理論という科目が重要視されるのは当然な気がしますね。
こちらが1次試験と2次試験の関係をあらわした図ですが、企業経営理論は事例I(組織・人事)、事例II(マーケティング・流通)と密接に関係しているだけでなく、事例III~IVとも関係してきます。
運営管理、財務会計と並んで、中小企業診断士試験の最重要科目と言ってもいいかも知れません。
とにかく文章が長い
この記事では1次試験の企業経営理論について解説していきます。
1次試験の企業経営理論は1日目の13:30~15:00の90分間でおこなわれ、問題数は、ここ5年間とも41問となっています。配点は1問当たり2~3点と一定ではありません。試験中には配点がわかりませんので、どの問題で時間を長く使う、といった判断はできません。
全体的に、問題文および選択肢の文章が長いのが特徴です。令和2年度(2020年度)中小企業診断士1次試験7科目のうち、試験時間が90分間の3科目で比べてみましょう。
試験科目 | 試験時間 | 問題数 | ページ数 |
企業経営理論 | 90分 | 41 | 46 |
運営管理(オペレーション・マネジメント) | 90分 | 44 | 38 |
中小企業経営・中小企業政策 | 90分 | 42 | 31 |
問題数自体は、3科目のうちで企業経営理論の問題数が最も少ないですが、注目すべきはページ数です。問題数41に対してページ数46となっていて、1問に2ページを要している問題も存在しています。
もちろん、問題によってはページの半分も使っていないものもありますが、他の2科目と比べると各問題の文章量が多いことは想像できると思います。文章量が多いということは、それを読むだけでも時間がかかってしまうため、難易度が高くなってしまいます。
難易度が高く合格率が安定しない
企業経営理論の過去10年(平成23年度~令和2年度)の合格率の推移を見てみましょう。企業経営理論の科目合格率は6.8%~29.6%の間で変化しています。変動が大きすぎますね。10年間のパーセンテージを単純に平均した場合、約13.8%となっています。
なお、この科目合格率のデータを見る場合、1次試験合格者は、科目合格率の集計に入っていません。つまり、成績の良い受験者のデータが含まれていない可能性があります。
確実なことは言えませんが、1次試験に合格する方は少なくとも40点以上(足切り回避得点)であることはもちろん、他の受験科目と合わせて平均60点以上を獲得しているはずですので、科目合格基準である60点を超えている可能性は、全体の受験生に比べれば高いと考えます。そのため、この科目合格率=全体の合格(60点以上獲得)率ではないということに注意が必要です。
とはいえ、企業経営理論が難しい科目であることは間違いないでしょう。
出題範囲
1次試験の企業経営理論の出題範囲は広く、大きく3つの分野に分けられます。
それが経営戦略論・組織論・マーケティング論です。
試験における出題はちょうど3分の1ずつ程度の割合で出題されますので、まんべんなく学習しておく必要があります。
それぞれの分野について解説していきますね。
経営戦略論
経営戦略論は、以下の9つの分野が問われます。
- 経営計画と経営管理
- 企業戦略
- 成長戦略
- 経営資源戦略
- 競争戦略
- 技術経営(MOT)
- 国際経営(グローバル戦略)
- 企業の社会的責任(CSR)
- その他経営戦略論に関する事項
経営戦略論では、企業戦略策定のための自社の強み・弱みを分析するSWOT分析、経営資源配分のためのPPM(プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント)、差別化や集中戦略などの競争優位戦略、などの経営戦略の基礎理論が中心となります。
この考え方は、中小企業のコンサルを紙上でおこなう2次試験で役立つことはもちろん、実際に中小企業診断士となって中小企業に対してコンサルティングをおこなっていく際にも必要となる考え方ですので、しっかりと理解しておく必要があります。
組織論
経営戦略論は、以下の4つの分野が問われます。
- 経営組織の形態と構造
- 経営組織の運営
- 人的資源管理
- その他組織論に関する事項
組織論と書いてありますが、単純な組織論だけではないことに注意が必要です。人的資源管理の中には、労働関連法規が含まれています。この労働関連法規は、5問程度出題されるのですが、私も社会保険労務士試験に合格しているのでわかりますが、中小企業診断士としては必要とは言えない社会保険労務士試験レベルに近い難関問題が含まれていることがありますので、あまり深入りしない事が重要です。
中小企業診断士試験対策としては手を広げず、基本理論を抑えておいて、あとは問題演習をこなしていきましょう。
マーケティング論
マーケティング論は、以下の10の分野が問われます。
- マーケティングの基礎概念
- マーケティング計画と市場調査
- 消費者行動
- 製品計画
- 製品開発
- 価格計画
- 流通チャネルと物流
- プロモーション
- 応用マーケティング
- その他マーケティング論に関する事項
マーケティング全般を問われますので、4P(Product・Price・Place・Promotion)の原則を抑えつつ、製品戦略、価格戦略、流通戦略、プロモーション、そしてプロモーション・ミックス理論をしっかりと理解しておく必要があります。
ここで得た知識は事例II(マーケティング・流通)でも大いに活用しますので、きちんと頭に入れておくことが重要です。
日本語が難しい!でも、実は常識論で回答可能
最後に、中小企業診断士1次試験の企業経営理論の特徴として、日本語が難しいということを挙げておきます。正直、枚挙にいとまがないレベルで難解な日本語が使用されているのですが、例を見てみましょう。
令和2年度(2021年度)の中小企業診断士1次試験・企業経営理論の第33問です。
第33問 消費者と社会的アイデンティティに関する記述として、最も適切なものはどれか。
ア 感覚や好みに基づいて選択される場合と異なり、専門的知識が必要な製品やサービスに関しては、消費者は属性や価値観が自分と類似している他者の意見やアドバイスを重視する。
イ 自己アイデンティティを示すため、消費者は拒否集団をイメージさせるブランドの選択を避ける傾向がある。この傾向は、他者から見られている状況において行う選択よりも、見られていない状況において行う選択で顕著に強くなる。
ウ 自己概念において社会的アイデンティティが顕著になっている場合、自分が所属している内集団で共有される典型的な特徴を支持するようになる一方、自分が所属していない外集団すべてに対して無関心になる。
エ 自分に影響を与えようとする意図をもった他者が存在する場合、消費者の行動はその他者から強く影響を受ける一方で、単にその場にいるだけの他者からは、影響を受けることはない。
オ 自分に対する他者からの否定的な評価を避け、肯定的な評価を形成していこうとする欲求は自己高揚と呼ばれる。自己高揚のレベルが高い消費者は、自分の所属集団よりも、願望集団で使用されているブランドとの結びつきを強める傾向がある。
簡単に言えばこんな感じです。
消費者は自分の所属する集団(地域、会社、サークル等)でどういう消費行動を取るか?
ア 専門的知識が必要な場合、身の回りの自分に似た人に聞く
イ 嫌われるブランドは、人から見られている時の方が買う可能性が高い
ウ 自分の集団以外の集団が好む特徴全てに対して無関心になる
エ 売り込みに来る店員と来ない店員では、来る店員の影響しか受けない
オ 他人の評価を高めたい場合、なりたい自分が選ぶブランドを選ぶ
だいぶ端折っているので少々正確性には難がありますが、この企業経営理論のポイントとして、
企業経営理論はわかりやすい日本語に直せれば解答可能な問題が多い
というのも特徴です。
この例題で言えば、「自己高揚」という言葉を知らない場合、消去法で解答するしかありません(正解は自己高揚という言葉を含めてオであるため)。
でも、社会的アイデンティティという言葉が漠然としかわかっていなくても、日本語を簡単にすれば何となくでもア~エは消去できそうですよね。
有名な論点であればもちろん理解していなければ回答できない問題もでますが、そこまで有名な論点でない場合、常識論で解答することが可能な問題も多いのが、企業経営理論の特徴です。
つまり、企業経営理論は日本語は難しいが、それを解釈する力があれば実はそれほど難しくない科目と言うことも可能です。
日本語(国語)力が試される試験というのは、ある程度のレベルの国家試験になると必ず出てくる問題です。
例えば高度情報技術者試験では、午後I試験の記述式では問題文の読み込みから記述での要約解答の能力、午後II試験の論述式試験では論述構成のための国語力がどうしても必要です。
社会保険労務士試験では、70問の択一式試験は中小企業診断士よりも複雑怪奇な問題文が連続しますので、日本語の解釈能力が重要になります。
企業経営理論の対策
企業経営理論の内容について説明しましたが、ここからは合格のための対策について述べたいと思います。
過去問アウトプットで繰り返し過去問を解く
企業経営理論は難しい論点も多いため、テキストをどんどん読み進めて理解を深めたい、という考えが出てくるのはわかります。ですが、私はこれを全面的にはオススメしません。
せめて、テキストを読んだら必ずすぐに問題を解いてください。
どのレベルの問題か?と言ったら、絶対に過去問です。
私は、企業経営理論については、過去問を解かなければ意味がないと思っています。
その理由は先にも述べた、企業経営理論はわかりやすい日本語に直せれば解答可能な問題が多いからです。
本試験レベルの問題文をきちんとした日本語に直すには、過去問での慣れが重要です。
そのために、学習開始時から過去問レベルの問題文に触れておきましょう。
確かに、企業経営理論には一度出題されたらしばらく出ないような論点も多く出題されています。そうした問題にも対応する必要があるの?と思うかも知れませんが、必要なのは知識だけでなく、問題解釈能力も含みますので、数多くの問題をこなしておきましょう。
ちなみに、過去問はもちろん1度だけではなく、何度も何度も繰り返して解きましょう。覚えてしまうから意味ない、という意見もあるかも知れませんが、私は、過去問覚えるくらい勉強しなくてどうやって合格しようと思うんですか?と逆に聞きたいです。
テキスト読んで丸暗記できるくらいの天才ならばそういう学習法もあるのかもしれませんが、私は凡人なので時間がいくらあってもそれはできず、最短距離を狙います。
私はこちらのTACの過去問集を使用しました。5年分の過去問と詳細な解説が載っていますのでオススメです。
中小企業診断士 最短合格のための 第1次試験過去問題集 (1) 企業経営理論
過去問アウトプット学習については、具体的な方法や、繰り返す回数などをこちらの記事で詳しく説明していますので、よろしければご参照ください。
過去問で日本語要約トレーニング
過去問で本試験の問題文に慣れることの重要性を述べましたが、過去問の活用法として、その問題で言っていることがどういうことなのか?ということを、模範解答の解説をよく読んで、しっかりと理解しましょう。
TACの過去問集は解説が非常にしっかりとしていて優秀です。
過去問だけでも、解説をきちんと読めばかなりの情報をインプット可能です。解説でのインプットをしながら、同時並行でそれぞれの選択肢がどういうことを聞いているのか?をしっかりと理解しましょう。
上の例題で紹介したような、各選択肢の平易な日本語での解釈を練習しておきましょう。結局のところは、どのような難しい文章であっても、自分の言葉で簡単な言葉に変換して理解することは、試験に合格するためだけではなく、合格した後のコンサルティングでも非常に重要な能力になりますので、身につけておいて損はありません。
企業経営理論については、是非選択肢の解釈も含めて取り組んでみてください。
練習問題も活用して知識の幅を広げておく
過去問インプット学習である程度のインプットができてくると、それだけでは足りないという結論にたどり着くと思います。
それは当然で、例えばTACの過去問集5年分をマスターしたとしても、41問×5年=205問ですから、それだけでは十分とは言えないですよね。
でも、ここでテキストを読んで理解を広げよう、というのはやめたほうがいいです。やはりアウトプット学習を中心にして知識を定着させるべきです。
問題集でのアウトプット学習としては、こちらのTACのスピード問題集の活用がオススメです。
中小企業診断士 最速合格のための スピード問題集 (1) 企業経営理論
なお、問題集としては、必ずしもTACである必要はなく、
- 分野別の論点をしっかりカバーしている
- 問題のクオリティがそれなりに高い
- 解説が詳細に書かれていてインプット学習に使用可能なレベルになっている
という条件を満たしたものにすれば何でもOKです。
基本的な理論だけはしっかりと暗記
企業経営理論の場合、暗記が必須という科目ではありませんが、きちんと理論を理解できているかを確認するために、テキストで太字になっているような重要論点は、しっかりと暗記しておきたいところです。
この暗記には、TACのポケットブックを活用するのがいいと思います。
中小企業診断士 最速合格 要点整理ポケットブック 第1次試験 1日目
TACのポケットブック活用法としては、赤いシートで赤字で書かれた重要論点を隠しながら暗記していくのがポイントです。テキストをただ読むのは意味がない、と先に述べましたが、穴埋め式のような形で、隠れている文字が何かを考えながら、つまり脳を刺激しながら読んでいくことで記憶の定着を図ることが重要です。
まとめ
以上、企業経営理論の概要および対策を述べてきましたがいかがでしたでしょうか。ここでまとめておきたいと思います。
- 1次試験でも2次試験でも必要な診断士試験の重要科目
- 文章が長く、日本語が難しいのが特徴。ただし暗記に頼らず常識論で解答可能な問題も多い
- とにかく早く過去問アウトプット学習を始める(問題の言い回し対策)
- 過去問をやった後は、問題集でアウトプット練習、重要論点を暗記する、などの学習
企業経営理論は難しい印象の科目ですが、日本語の難しささえ克服してしまえば、実際はそれほどの難易度でもないと考えます。
理論を全部知っていなければ回答できない問題を出すことで難易度を上げているのではなく、難しい言い回しで難易度を上げている印象です。そのため、実際の問題は初見の論点だったとしてもしっかりと考えれば2択くらいには絞れそうな問題も多いです。
ただ、その絞り込みのためには簡単な日本語にして理解し、迅速に解答を絞り込む必要があり、そのためにはトレーニングが必要です。少し理不尽な気もしますが、試験に合格するための通り道だと割り切って、しっかりと試験対策をしましょう。
ここまでお読みくださいましてありがとうございました。